水害にあった写真の救出方法

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

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水害にあった写真の救出方法

2011年5月5日更新

2011年3月11日の東日本大震災は写真に甚大なる被害を与えました。集められた写真はビニール袋にいれられて保管されている場合もあります。すぐに作業ができない場合はまずビニール袋から出し、直射日光、強い風を避けて風通しの良い所で乾かし、なるべく湿度の低い場所に保管しましょう。その後は下のガイドラインを参考に処置を行います。修復に先立ち写真のプロセスの判断、状態の把握が重要です。その上で処置の可能なものに対しては概要を決め、作業に入ります。写真の状態によっては、処置をすることで、損傷を与えてしまう可能性もあり危険です。できれば1枚処置を試してみてから他の同様の写真にとりかかるのもよいと思います。処置の判断に迷うものに関しては現状のまま保存します。

準備/注意点

  1. 処置前に可能な限り被害を受けた写真をデジタルカメラで撮影して記録をとること。
  2. どのような汚染水に浸かっていたのかがわからないことから、プリントを洗うときはなるべく手袋(あれば医療用の、なければきれいなゴム手袋)をすること。洗った水が目や顔にかからないようにすること。
  3. 写真に水性のインクで記載がある場合は水洗いによってとれてしまうことがあるのでデジタルカメラで撮影し、記載事項の記録をとっておくこと。

準備品目

  • ノート
  • 鉛筆
  • スナップショット用の写真機
  • ゴム手袋
  • 水洗用のバットまたはバケツ(2個以上)
  • 乾燥用のタオル、ペーパータオル、吸い取り紙
  • 乾燥用の洗濯バサミとロープ
  • カッター、はさみ
  • 写真を仕分けするために入れるジップロックなどの袋
  • マーカー
  • 吸い取り紙


プリントの洗浄に関して

  • 通常のカラープリント(インクジェットや家庭でプリントしたものは除く)は水(好ましくは冷水)をバケツ/バットに入れ、浸して洗うことができます。表裏を返して、汚れが表面に溜まらないようにします。あまり汚れのひどくないものであれば、直接水をかけながら洗ってもよいのですが、その場合は水の勢いを弱くし、プラスチックのシート(下敷きのようなもの)の上にプリントをのせながら洗うといいでしょう。
  • 泥は乾いているときの方が取りやすい場合もあります。もし泥が多くついていて、比較的柔らかい泥であれば、メスやカッターで注意深くそぎ落とします。幾つかの水を入れたバケツ/バットを用意して、洗った順に次のバットに移動させて洗浄し、またその次のバットに入れて洗浄すると効率もよく、水も節約できます。

古いプリントは特に注意が必要です。劣化(カビ)や破れがあるものや、長い間水分を含んだゼラチンの状態によっては、洗浄すると画像を失ってしまう危険な場合があります。


プリントが何枚か重なってしまっている場合

  • プリントが重なったままの状態で、全体を水に浸し(a)、30分くらいしてからそのまま水の中で順番に端から剥がしていきます(b)。剥がれない場合は無理をせず、もう少し長く水に浸けてみて下さい。時々、水の中でゆすったり、やわらかい筆を重なったところに入れて水がはいりやすくすると剥がれやすい場合があります。
(a)
(a).jpg
(b)
(b)-1.jpg
(b)-2.jpg


ポケットアルバムの場合

  • アルバムの表紙とホチキスを取り除き、全体を水に浸けます。1枚ずつ(プラスチックの透明シートが密着したままの状態で)カッターで写真の周りを切って(c)それぞれを水に入れます。まず白い台紙を取り除いてから(d)透明シートをとります(e)。
(c)
(c).jpg
(d)
(d).jpg
(e)
(e).jpg


台紙つきアルバムの場合(台紙にのりがついて上からプラスチックシートをかぶせるタイプ)

  • 3、40年くらい前によく使われていたタイプのアルバムです。これらのアルバムの処置は簡単ではなく、時間もかかるので現地では難しいかもしれません。
  • プラスチックシートが取れない場合は、アルバムを解体して、台紙を1枚ずつにします(f)(g)。 台紙にナイフを入れて2枚に裂きます(h)。なるべく周囲の台紙部分、シート部分を切り取って除きます。洗浄する場合、台紙を水に入れてしばらく置いた後、画像面を下にして、まず水でふやけた台紙をめくりながらはがします(i)。その後プラスチックシートをゆっくりと写真からはがします(j)。
(f)
(f).jpg
(g)
(g).jpg
(h)
(h).jpg
(i)
(i).jpg
(j)
(j).jpg
  • 乾燥しているようであれば、新たに水に濡らさずにページを少し上下に曲げたりしながら、端からプラスチックシートを剥がします(k)。
(k)
(k).jpg
  • このタイプのアルバムに関しては、乾いていた方が処置の行いやすいことがあります。
  • これらのシートの中には水が浸透しにくい場合があり、シートが写真には密着しておらず、周りの台紙部分だけの時もあるので、その場合はシートと共に写真の周囲をカットします。プラスチックの当たっていた部分の写真の表面の光沢が変わってしまう(テカリがでてしまう)ことがあるかもしれません。
  • 台紙が乾いていて、プラスチックシートを剥がすことができた場合、写真が台紙からすぐに剥がれることもあります。剥がれにくいものは写真と台紙の間に暖めたパレットナイフやナイフを入れて剥がしていきます。その際写真を平に保ったままで折曲げないようにすることも大切です。


額縁に入った写真

  • もしまだ写真の表面がガラス/アクリルに密着していないようであれば、額から写真をはずします。密着している場合は、まず額の裏の台紙等を外します。バライタ紙1)の場合は画像面を下にしてしばらく水に浸けた後、剥がします。RC紙2)の場合も同様にしますが、水が入りにくく、剥がすことが困難な場合もあります。

1) 2)バライタ紙とRC紙の区別の仕方:裏を触ってみて下さい。裏がなめらかでつるっとしていて鉛筆で書きこみにくいものはRC紙です。バライタ紙の裏は普通の紙と同じです。1970年代以降のプリントはRC紙が多く見られます。RC紙は水に濡れてもカーリング(紙がまるまってしまうこと)しません。

frame1.jpg
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乾燥をする場所/環境について

  • 自然乾燥をする場所はなるべく埃の少ないところ、湿度の高いところをさけ、直射日光の当たらないところ、空気の循環の良いところが適しています。風が写真に直接当たらないように扇風機を置いて回しても良いでしょう。


乾燥の仕方

  • 洗った後は、画面を上にして、タオルやペーパータオル、紙などの上で乾かします。下に敷いたペーパータオル等は時々新しいものに取り替えます。バライタ紙の場合、プリント上に水たまりができないように乾かします。水たまりができた場合はやわらかいティッシュやタオルで画面に触れないよう吸い取ります。RC紙の場合は端を洗濯バサミでつまみ、つるして乾かします。

dry1.jpg
dry2.jpg


水につけられないもの

  • 酢酸セルローズ、硝酸セルローズ
  • コロジオン(ガラスネガ、ティンタイプ、アンブロタイプなど)
  • カラー:オートクローム、染料転写方式(dye imbibition process)のダイトランスファープリント、銀色素漂白方式(silver dye bleach process)のチバクローム/イルフォクローム、インク ジェットプリント
  • 以上のプロセスでなくても、すでにカビなどで劣化のみられる写真



作成:
白岩洋子
協力:
岩間美代子 江前敏晴 金野聡子 小関俊旭 小谷野匡子 
宮川洋一郎 宮川皓子 村田華子 山崎クレップス昌子