大切な思い出の品々を守る ~水災害後の応急処置~

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

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大切な思い出の品々を守る ~水災害後の応急処置~

東日本大震災では、大変な被害を被られた方々に心からお見舞い申し上げます。被害は、美術品をはじめ大切な思い出の品々にも及んでおります。帰らぬ尊い命が失われてしまった事実は悲しく無常というほかありませんが、残されている大切な品々は修復によってよみがえることもあります。津波などの水害を受けた品々の応急処置につき、内外のガイドラインに基づき、その要旨を作成しましたので紹介します。より進んだ処置について情報が必要な方は、㈱絵画保存研究所のメールにアクセス下さい。尚、追加の情報につきましては随時アップいたします。

安全対策

★作業をする際には長袖、衛生手袋、マスクや保護眼鏡などを着用しましょう。カビまたは有害物質を扱った後は抗菌石鹸を使って手を洗いましょう。

★カビには有害なものがあるため、カビまたは有害物質が見受けられる場合は感染対策用マスク(レスピレーター)を使いましょう。体調に異常を感じた場合は医者に相談しましょう。乾いているカビを除去する場合は、カビ胞子が自分に向かって飛ばないように気をつけましょう。


書類、地図、ポスター、賞状など

★濡れている場合(紙は濡れている状態では非常に弱いため注意しながら、また十分に下から支えながら慎重に扱いましょう。)

①吸水性のある紙などで余分な水分を取り除きます。

②乾燥します。

  • ◆濡れている場合、重なった紙類などは無理に剥がさないようにします。0.5cm程度以下の高さまでなら、重ねた状態で乾かしてもかまいません。
  • ◆重なった紙を問題なく剥がせる場合は、吸水性のあるキッチンペーパーやクッキングシート(ワックスペーパー)などを間にはさみ、紙作品が乾くまで取り替えます。
  • ◆可能であれば、錆びてないきれいな網戸を木のブロックやレンガを間に挟んで積み重ね、網戸の上に紙を乗せて乾かせばより効果的に乾かすことが可能です。
  • ◆テーブルなどの硬い表面の上で乾かす場合は、吸収性の良い材料を敷き、湿ったら取り替えながら乾かしていきます。

③平らにします。

  • ◆ほとんど乾いた状態になったら無地の薄紙のような保護紙の間に入れ重しを上に乗せます。(注:水分が抜け切れてない状態で重しをしてしまうとカビが生えてしまう可能性があるので、こまめに確認をします。)

★乾いている場合

①汚れを取り除きます。

  • ◆柔らかい筆やスポンジで埃や汚れなどを除去します。

②塩水に浸ったものは真水に浸して洗います。

  • ◆絵具やインクが水に溶けるものは洗えません。
  • ◆バットに水を張ります。まず、紙の支えになる合成繊維の紙か、なければ薄い布などを浮かべます。その上に紙作品を乗せ、水に浸します。水は、何度か新しい水に替えて洗います。

③乾燥します。

  • ◆机の上に新聞紙を敷いてその上にキッチンペーパーを置き、支えの紙又は布ごと作品をその上に移動し、自然乾燥します。

④平らにします。

  • ◆濡れている場合の③と同様の手順で乾燥します。


①半分以上濡れてしまっている本はまず水切りをします。

  • ◆本は、シーツまたはタオルの上に立たせ、小さく切ったスポンジを本の前側の縁に当てて水切りをします。水切りの際は本を閉じたまま行います。水が垂れなくなったら本の冷凍が可能になります。本は、濡れているときには開かないようにします。

②本を冷凍します。

  • ◆冷凍すると本への更なる損傷を防ぐことが可能であり、その状態で数週間、数ヶ月と安定した状態で保存ができます。本はクッキングシートのようなワックスペーパーに包み、冷凍庫に入れます。霜取り機能のある冷凍庫の場合は、凍らせたまま本を乾かすことができますが、数週間から数カ月かかります。

③本を解凍します。

  • ◆本を解凍するときは、霜をはらいゆっくり解凍します。解凍中は、適宜余分な水分を吸い取ります。

④本を乾燥します。

  • ◆本が半乾きの状態のとき、一番効果的に自然乾燥させることができます。本を立て、扇形に開いて乾燥させます。上下の縁のうち、より乾いている縁の方をまず下側にします。数時間ごとに、上下を逆にして乾燥させます。
  • ◆乾かすときは、本より大きい白いキッチンペーパーを1枚ずつ表紙・裏表紙と次頁の紙の間に入れてから本をたてて乾燥させます。キッチンペーパーが濡れたら取り替えます。

⑤本に重しを乗せます。

  • ◆本が、濡れてはいないけれど触るとひんやりする状態になったら、本を閉め、レンガなどの軽い重しをして歪みを最小限にします。カビが生えてないかときどきチェックします。


写真

★殆どの写真、ネガ、スライドは自然乾燥が可能です。古い写真には水により損傷を受けやすいものがあり、その場合は修復・復元が難しいことがあります。

①汚れを落とします。

  • ◆写真が泥や土まみれでまだ濡れている場合は、冷たいきれいな水をためたバケツや緩やかな水流の下で優しく洗います。泥は乾いた状態で除去する方が取れやすいので、無理に完全に取らなくて大丈夫です。

②乾燥します。

  • ◆写真(画像の部分)側を上にして乾燥させます。濡れている時は写真やネガ(画像の部分)を触るのは避けます。(注:ネガ、スライドでは、大概、光沢がない側が画像側です。)
  • ◆早く乾燥させるには、洗濯バサミ(木の洗濯バサミあるいは、傷が付きにくい挟み口が平らなプラスチック製のもの)を使って洗濯紐に吊るします。画像部分の上には留めないように注意!
  • ◆額装されている写真は、まず、額のガラス部分を下にし、裏ボードなどを取り出します。写真がガラスにくっついてしまっている場合は取り出さずそのままガラス面を下にしたまま平らな状態で乾燥させます。
  • ◆乾燥中に写真が丸まってしまっても、後で平らにできるので大丈夫です。


☆写真修復家の白岩洋子さんより、写真の応急処置について詳しい情報が送られてきました。詳細はこちらをごらん下さい。


衣類、布類(テキスタイル)

★繊細な生地のものは広げないようにしましょう。濡れているものは重ねないようにしましょう。

素材によって扱い方が異なります。

  • ◆A.素材が綿、麻などのセルロース繊維、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維のもの
    • 洗います。
      • 洗って、すすぎ、広げたバスタオルやシーツなどの上に広げて、タオルごとくるくると巻き、水分を取り除きます。バスタオルでくるみ、洗濯機の脱水機に1~3分程度かけてもいいです。
    • 乾燥します。
      • 乾いたバスタオルや平らな網の上などに広げて乾かします。可能であれば、扇風機やエアコンを使います。乾かしている間に、布を元の形に整えます。布を長い時間、濡れている状態にしないこと、濡れている布を重ねないことが大切です。
  • ◆B.素材が絹、毛で裏のついてないもの、(セーター、ブラウス、毛布など)
    • 洗います。
      • 中性洗剤を使います。布地をこすらず、丁寧に、押し洗い、押しすすぎをしてください。あとはAと同じ方法で水分を除去します。 
    • Aと同じ方法で乾燥します。
  • ◆C.素材が絹、毛で裏地がついているもの(着物、コート、スーツなど)
    • 自分で洗うのは難しいので、できるだけ早くクリーニングに出してください。
  • ◆濡れているものは陰干しで乾かして下さい

(共立女子大学 斉藤昌子 記)

木製家具

  • ◆スポンジなどを利用して表面を軽くクリーニングし、水分を拭き取ります。ゆっくり空気乾燥させます。合板などを利用した家具には重しをするかクランプを使って押さえて乾燥させます。その際、表面にワックスペーパーなどを当てて保護します。
  • ◆水分や湿気により表面に白い曇り(ブルーミング)が現れることがありますが、すぐに処置が必要な症状ではありません。処置については専門家に相談しましょう。


布・皮張りの家具

  • ◆泥を洗い落します。クッションや取り外せるものは取り除きます。シーツやタオルにくるみ空気乾燥させます。シーツやタオルは濡れたら取り替えます。木製の部分は水分を拭き取り、ゆっくり自然乾燥させます。


絵画(油絵)

  • ◆額から取り外します。絵は木枠から外さないようにします。絵の部分を上にし、平らに置いて乾かします。画面の上には何も触れないようにします。直射日光での乾燥は避けます。
  • ◆絵画の表面にも、乾燥後にブルーミングの症状が現れることがあります。(木製家具の項を参照)


絵画(掛軸)

  • ◆濡れている場合:水分を吸い取る紙を下に敷いてその上に広げ、陰干しで乾かします。上に毛布など薄手の布をかけて乾かすと、乾かすときにできる歪みを押さえることができます。
  • ◆巻いたまま濡れて乾いた場合:巻いた状態で濡れたときは、中までは濡れていないことも多いものです。しかし、巻いた状態で中まで濡れて乾いてしまった場合は、無理に開くと裂けることがあります。その場合は、湿らした紙に包んでビニール袋の中などに2時間位おき、全体に湿りがまわったら開いて陰干しします。


金属品

  • ◆泥やゴミが付着している場合は、きれいな水で洗い、すぐに乾いた柔らかい布で拭いて乾かします。彫刻などのような大きな金属作品に大きい泥の塊がついているような場合には、そのまま乾かします。固まった泥は後で取り除きます。


CD

  • ◆きれいな冷たい水で泥や土を洗い落とします。それでも落ちない場合は薄い洗剤液につけておきます。CDを擦ってはいけません。ラックがあって縦にして乾燥できる場合はそうします。もしそうできない場合は、きれいなワックスペーパー(クッキングシートなど)の上にきれいな紙を置き、その上に印刷面を下にして置き、乾燥させます。紙は濡れたら取り替えます。


フロッピーディスク

  • ◆ケースからディスクを取り出し、きれいな水につけます。キッチンペーパーやマイクロファイバーのタオル(眼鏡拭きのように糸くずのでない布)などの上で乾燥させます。乾燥後は新しいケースに入れ、データをコピーし、オリジナルは破棄します。


ビデオテープ、カセットテープ

  • ◆濡れている場合は、ケースからテープを取り出します。テープは巻いた状態のまま、きれいな水で洗います。きれいなシーツまたはタオルの上に縦に立てて乾燥させます。乾いたらケースに戻し、コピーし、オリジナルは破棄します。


LP、45s、78‘sなどのレコード

  • ◆ラベルやジャケットについては上記の紙の項目を参照して下さい。レコードに泥や土がついている場合はきれいな水で洗い落とします。横にした網戸の上など空気循環のいいところで自然乾燥させます。


コンピュータハードドライブ

  • ◆ハードドライブは、乾かすだけでまた利用できるものではありません。ドライヤーを使って乾かすのはやめましょう。コンピュータからハードドライブを取り出し(振って水を出したりはしない!)、そのままプラスチックの袋に入れ、コンピュータリカバリーの専門会社に送ります。バックアップディスクやテープの方がより簡単、安価に復元できます。


注意事項
★本格的な処置については専門家に相談しましょう。


<汚染物質>

水災害により、下水、肥料、ガソリン、油やその他化学薬品などに汚染されてしまうことが考えられます。このような対象物の回収は可能ですが、回収している人への危険が大きいことがあるため回収が本当に必要かどうかを慎重に考える必要があります。
回収する場合は、ゴム手袋を着用しましょう。レスピレーターも使用する方が良いですが、ない場合は外の広い場所でのみ回収作業を行いましょう。ゴーグルなど目、鼻、口を守れるものを着用しましょう。また、回収作業を行っている人は白い使い捨てつなぎ服(工務店で売っていて、画家や建設業者がよく着用するもの)を着る方が良いですが、ない場合は長袖、長ズボンを着ましょう。作業終了の度に着たものは捨てましょう。
汚染物を除去するには、きれいな水で汚染物がなくなるまで何度も洗います。

<カビ>

まず、カビが活性化しているか休眠状態であるかを確認します。活性状態のカビはけば状であったり粘着性であったりします。休眠状態のカビは乾いて粉状になっています。対象物を乾燥、かつ涼しい所に移動し換気が十分されていることを確かめましょう。このような状況下ではカビの活動が止まり、匂いも自然と消えます。カビが生えているのが確認できた場合、完全に対象物が乾くまで取り除く作業はしないでください。乾いてない状態で取り除こうとすると逆にカビが擦り込まれてシミになり、その除去が不可能になります。
短時間、太陽光に当て、外気にさらすことによって匂いが取れることもありますが、光により暗色化したり、褪色するものも多いので気をつけて下さい。

<煙・煤>

まず、柔らかい化粧用ブラシなどを使い、慎重に煤や汚れを除去します。汚れ・煤などは匂いを紙などに吸着する源になります。次に、対象物を平らにテーブルの上に置きます。本の場合は本棚に置くようにテーブルの上に置き、扇状に頁を開きます。除湿器をテーブルの近くで回します。湿気を取ることによって匂いも除去されます。除湿器がない場合は扇風機でも大丈夫です。また、対象物をゴミ袋に入れ、重曹1箱の蓋を開けたものを一緒に入れて結び、2,3日置いておくと匂いを取る効果があります。この方法で匂いが少なくなったようなら、もう一度繰り返してみると良いでしょう。注:湿気の強い所ではカビが生えてしまう可能性があります。
短時間、太陽光に当て、外気にさらすことによって匂いが取れることもありますが、光により暗色化したり、褪色するものも多いので気をつけて下さい。

<自然乾燥>

最大限の空気循環で乾燥させるためには扇風機を使うと効果的ですが、対象物に直接風を当てないようにしてください。余分な水分はスポンジ、ペーパータオル、画用紙、タオル、シーツなどのものを使って吸い取ります。インクの手書きのものや損傷しやすそうなものの表面の水分は吸い取ろうとしないで下さい。また印刷インクが染み込んでしまうことがあるので新聞紙で吸い取らないで下さい。しかし、もし新聞紙以外のものが手に入らない状況のときは、新聞紙のカラーで印刷された部分で吸い取るようにします。こするとカラーのインクがとれることがあるので擦らないように注意します。

<乾燥中の損傷>

 もし乾燥中に対象物が壊れたりバラバラになりそうになっても、完全に乾燥するまでは直そうとしないようにしましょう。壊れたピースを容器に入れ、ラベルを付けておきましょう。


参考サイト: