SEASON1-17

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

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更新日 2014-11-07 | 作成日 2008-04-01

SEASON1 第十七回目 

油彩画の修復処置Ⅰ(調査・クリーニング)

油彩画の修復処置には、次のような種類に分けられます。修復の際には、必ず1. の処置を行い、必要に応じて2. や3. の処置を行います。

  1. 最低限必要な処置:放っておくと進行したり、さらなる損傷につながる症状に対する処置(キャンバスの裂け、絵具の浮き上がり、カビ、結晶など、進行中の危険な状態に対する処置)
  2. 望ましい処置:すぐに危険な状態には進行しないが、将来の損傷防止のために、又、作品をオリジナルの状態に近づけるために行った方が良い処置(キャンバスの歪み/たるみ直し、黄化したニスの除去、剥落部への充填・補彩など、損傷や画調の変化に対する処置)
  3. 理想的な処置:作品が常にできるだけ良い状態を保つようにするための処置(作品周辺の環境整備・調湿額など)

clean01.jpg乾式クリーニング、スポンジ(クリックで拡大)

調査 

修復の最初には、まず、素材と状態を調査し、写真と文章による記録をします。必要な場合は、X線写真、紫外線写真、赤外線写真などの特別写真を撮影したり、化学分析を行ったりして、作品の性質を理解して最適な修復方法を選ぶようにします。また、オリジナルがどうなっていたかを考慮して、オリジナルの状態になるべく近づけるための処置を検討します。_そして、処置に用いる溶剤や材料を選ぶ際には、ニスや絵具の溶解度テストを行います。小さい綿棒に溶剤を浸して、額縁で隠れる縁の部分や、作品の重要でない目立たない部分などで行います。そして、ニスや絵具が何の溶剤に溶けたり反応したりするかを調べ、クリーニングの際の適切な溶剤の配合や、その他の処置に用いる材料を選びます。

clean02.jpg溶剤によるクリーニング、ニス除去(クリックで拡大)

クリーニング

クリーニングによって、表面の埃の除去やニスの除去を行います。溶剤を用いないで乾式で行う方法と溶剤を調合して行う方法があります。変色した補彩や付着物の除去などもクリーニングに含まれます。オリジナルの絵具を傷めないで行うことが重要です。_乾式のクリーニングでは、筆やスポンジを用いて取れる汚れを取ります。溶剤を調合して行うクリーニングでは、表面の汚れやニスを除去することができます。ニスが非常に黄変している場合は天然樹脂のニスであることが多いのですが、このようなニスを除去する場合、オリジナルの油絵具に影響を与えずにニスのみを除去するように溶剤を調合してクリーニングします。ニスの暗色化が進むと、色のみではなくイメージの形もはっきり見えなくなることもあります。クリーニングにより、オリジナルの色調や形を回復させることができます。

clean03.jpg溶剤によるクリーニング、汚れ除去(クリックで拡大)