SEASON1 第四回目
絵画の種類と素材Ⅰ(壁画・油絵・現代絵画)
旧石器時代(BC20000年頃)に洞窟に描かれた壁画が、人類が制作した初めての絵画であると言われています。その後、壁画は墳墓、宮殿、教会、住居の一部として装飾性を強めながら、ルネッサンス頃まで世界各地で描かれています。壁画は、その制作支持体が丘陵や建築の一部のため、それらと一体化しているものとして保存方法が考えられます。
- アルタミラ(スペイン)の洞窟壁画(BC15000〜BC10000年頃、1879年発見)
- 支持体:石灰岩
- 顔料:黒—酸化マンガン・木炭、黄・赤一酸化鉄
- 技法:刻線を棒のようなもので描き、水溶きの土性顔料を塗った。木炭を塗り、その上からたたいたようにも見える。絵具は湿った岩石と同体となって固着。
- ラスコー(フランス)の洞窟壁画(BC15000〜BC10000年頃、1940年発見)
- 支持体:石灰岩
- 顔料:黒—木炭、赤—土性顔料の赤(酸化鉄など)、白—白土
- 技法:媒剤は用いず、濡れた壁の上に木炭で線を描き、次に貝皿に赤を溶き、皿から細筒で吹いて点やぼかしを表現した。彩色後、皮のパットでたたいた跡あり。
- 高松塚古墳(奈良県明日香村、1972年3月21日発見)7〜8世紀の円墳
- 支持体:凝灰岩の切石を平滑に仕上げたもの
- グランド:漆喰、消石灰に水を加えて練った層(フレスコ、セッコ)
- 顔料:赤—朱(硫化水銀)、赤褐色—酸化鉄・べんがら、淡紅色—朱・白色(不明)、黄—黄土(含水酸化鉄)、緑—岩緑青(塩基性炭酸銅)、青—岩群青(塩基性炭酸銅)、白—不明、金—金箔、銀—銀箔、黒—墨
- 媒剤:不明(分析されていない)
- 技法:フレスコ、セッコで準備された壁に何か媒剤を加えて彩色したと思われる。大陸からもたらされた技法による。
油彩画は、突然現われたのではなく、中世に100年以上をかけて徐々に発展したものです。14世紀までは、支持体は板で、絵具はテンペラでした。14世紀に、ジョット(Giotto)が油をテンペラに混ぜて使用するようになります。これが絵画に油を使用した始まりと言われています。長い間、テンペラと油絵具を併用したり、卵と油のエマルジョンを使用する例も多く見られました。また、16世紀には、支持体として主流であった板の使用が減り、キャンバスの使用が盛んになりました。油彩画は17世紀になると本格的に描かれ出します。18世紀にはプルシャンブルー(1704)が発明され、19世紀には多くの合成顔料が登場します。20世紀になると、有機顔料やアクリル絵具などの合成樹脂を含む絵具も製造されるようになりました。現代絵画では、このような新しい絵具が用いられたり、画材以外の材料が用いられたりなど、素材は多様化しています。
- ボッティチェルリ Bottichelli 「受胎告知」 1489年
- 支持体:板
- 絵具層:テンペラ
- ボッティチェルリBottichelli 「ビーナスの誕生」 1485-86年
- 支持体:キャンバス
- 絵具層:テンペラ
- ティティアンTitian「女性像」 1555年頃 (ティティアンは油絵具のみで描いた最初の画家といわれています。)
- 支持体:キャンバス
- 絵具層:油絵具
油絵具を使った例(部分)
絵画の絵具層は、媒材の異なった絵画材料で表現されています。媒材により絵画は次のように分けられます。
- アンコスティック 顔料+ワックスを混入した媒材
- フレスコ 顔料を水酸化カルシウムの炭酸化により固着
- テンペラ画 顔料+卵黄、または、卵白
- 油彩画 顔料+乾性油
- パステル画 顔料+トラガカントゴム
- 水彩画 顔料+アラビアゴム
- 素描 鉛筆、コンテ、木炭
- 日本画 岩絵具、有機顔料+膠
- 版画 油性、または、水性インク
- ミックストメディア 顔料+天然、または、合成の媒材