SEASON1-19

株式会社 絵画保存研究所

Art Conservation Lab.

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更新日 2014-11-07 | 作成日 2008-04-01

SEASON1 第十九回目 

油彩画の修復処置Ⅲ(ストリップライニング・裂け直し・裏打ち)

修復処置の3回目は、ストリップライニング、裂け直し、及び裏打ちの処置をご紹介します。

ストリップ・ライニング

支持体の布の縁は、折り曲げられているので傷みやすく、また、釘などでとめられているので引っ張りの力がかかりやすい状態になっています。そのため、縁の折り曲げに沿って裂けたり、釘の周りの穴が広がったりなど、縁の部分に裂けや穴などの症状が出てきます。ストリップ・ライニングとは、縁のみに別の布を貼り付けて縁を強化する処置方法です。

19strip01.jpgストリップライニング1、布を縁のみに貼り付け(クリックで拡大)
19strip02.jpgストリップライニング2、布を貼付けた状態(クリックで拡大)

裂け直し(かけはぎ)

裂けや穴に対しての処置としては、まず破れた部分をふさいで布目を整え、接着します。さらにその上に糸を渡したり紙や布のパッチを貼って破れ部分を強化することもあります。症状の程度により、裂け直しの処置に続いて裏打ちを行う場合と部分的な処置のみにとどめる場合があります。

19sake01.jpg裂け、直し前、表(クリックで拡大)
19sake02.jpg裂け、直し前、裏(クリックで拡大)
19sake03.jpg裂け、直し後、表(クリックで拡大)
19sake04.jpg裂け、直し後、裏

裏打ち

オリジナルのキャンバスの強化が必要な場合に、新しい布を接着剤でオリジナルのキャンバスの裏に貼り付ける処置です。裂けや歪みなどの症状を予防する他に、キャンバスを動きにくくして絵具層への損傷も防ぐ効果があります。最近の傾向としては、周りの環境を整えることが可能な場合には、裏打ちを避けて理想的な環境を保つことで損傷を抑える方向になってきています。
キャンバス画の裏打ちは、油絵の登場から約150年後の17世紀に始まったと伝えられています。しかし、初期の裏打ちでは、接着剤によりキャンバスが縮んだり、絵具が浮き上がっていた箇所が以前より悪い状態になったりなどの問題がありました。裏打ちの際の熱や圧力により、絵具の筆跡が平らになったり、焼けたり、火ぶくれを起こしたりすることもありました。このような裏打ちの欠点を持たない方法として、18世紀に、オランダでワックスと樹脂による裏打ち方法が考案され、その後はこの方法が主流となります。しかし、20世紀半ば頃から、ワックスによる裏打ちの様々な問題が指摘されるようになりました。現在では、1970年代より開発された裏打ちのための新しい接着剤を用いることが多くなっています。これらの接着剤は、キャンバスや絵具層に浸透することなく、2枚のキャンバスの表面を接着することを目的としたものです。そのため、絵具の剥落、キャンバスの歪みの補正などは、裏打ちの際の接着剤の浸透によって行うのではなく、裏打ちとは別の処置として行われるようになっています。

19urauchi.jpg裏打ち処置(クリックで拡大)