SEASON2 第二十四回目
美術品の輸送
今回は、美術品の輸送を取り上げます。また、コレクター大学最終回ですので、最後に美術品のより良い保存のための環境について少し触れます。
輸送の際は、まず作品の状態調査を行い、レポートを作成します。そして、輸送後に状態に変化がなかったかどうかをまたチェックします。輸送前の状態調査は、次のように行います。
絵画と額の寸法の計り方 |
下記は絵画と額の採寸のための各名称。高さ(H)は左辺で、幅(W)は底辺で計る。表示は、H×Wとする。
<絵画>
<額> |
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絵画調査記録の作成 |
①番号(№)は必ず入れる。所有者の整理番号、受付番号など。
②調査記録には、記述式のものとマーク式のものがある。専門用語に慣れておくことが望ましい。
※額は、絵画に適切に取り付けられており、取れかけているような部分がないことを確認する。
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調査の後、特別な温湿度設定や取り扱いが必要な場合は、それを依頼します。また、梱包の際には立ち会うようにします。短距離の輸送で簡易な梱包の場合を除き、長距離をクレートに入れて輸送するような場合には、開梱までに12-24時間のならしを行わなければなりません。すぐに梱包を解くと、内部の水分量が急激に変化するからです。
以下の条件の場合は、作品をクレートという運送箱に入れて運ぶのが普通です。クレートは、クッション材などを含むために実際の作品よりもかなり大きくなります。クレートは、運送車の方向に垂直に並べます。
- クレートが必要なとき
- (a) 絵画が貨物飛行機で運ばれる場合。
- (b) 100キロ以上運送される場合。
- (c) 分解して運ぶ作品の場合。
- (d) 複数の場所へ移動する場合。
- (e) 短距離でも、デリケートな作品や高価な作品を運ぶ場合。
- (f) デリケートな額の場合。
- (g) 温度条件の厳しい場所など、危険のあるところへ運ぶ場合。
- (h) 運送取り扱い者に不安がある場合。
運送箱へ納める手順
最後に、美術品のより良い保存のための環境に触れておきます。美術品をよりよい状態で保存するためには、以下のように環境を整えることが理想的です。
- ① 光
- 窓などの開口部に紫外線防止用アクリル板やガラスを使用する。蛍光灯などの照明には紫外線防止フィルターを被せるか、無紫外線ランプに交換する。褪色しやすい作品はときどき掛け替える等して、暗所に保存する時間を長くする。
- ② 温度・湿度
- 作品をとりまく環境の温度を20℃、湿度をRH50%前後に保つことができれば理想的である。空調、除湿器、加湿器などにより室内環境を調節したり、シリカゲルなどの調湿剤により額や陳列ケース内の湿度を調節したりする方法がある。室内の温湿度の変化を少なくするために壁構造を工夫したり、保存箱に桐材などを使用したりするのもよい。
- ③ 大気汚染
- 空気清浄器などで室内を清浄に保ち、酸に対する緩衝剤を含む中性紙などで作品を保護する。
- ④ カビ、虫害
- 湿度をRH60%以内に保ち、カビの発生を防止する。発生した場合には、カビをはらい、カビ燻蒸処理による殺菌を行う。