SEASON2 第二回目
紙本美術品の修復①
今回は、紙本美術品の修復処置についての一回目です。進行している危険な状態に対する処置を取り上げます。
修復は、まず作品の素材や状態に関する完全な調査を行ってから進められます。最初に進行している危険な状態をストップさせることから始めます。その後、作品の美的価値を回復させるための処置を行います。修復後は適切な材料を用いて作品を保護し、保存環境を整備することが大切です。
進行中の危険な状態を改善するためにとられる主な処置
- 汚れ
- 画面に付着した埃や汚れは、作品を見にくくし、紙の酸性化や紙の繊維の損傷の原因となるので、まずそれらを取り除きます。筆、クリーニング専用のスポンジ、消しゴムなどを用いて行います。
- 酸性化
- 高い酸性度を示す紙には、脱酸処理を行い中和をはかります。油性インクによる作品など、水に反応しない作品は水浸します。さらに、重炭酸マグネシウムや水酸化カルシウムによる処理を行うことが一般的です。
- カビ・虫
- カビや虫による害がある作品は、燻蒸を行って殺菌、殺虫するか、環境の条件を変えることが必要です。カビは、RH62%以下に保つことができれば発芽を食い止めることができます。
- 絵具の浮き上がり・亀裂
- 描画材料層に亀裂や浮き上がりが発生している場合は、剥落する前に適切な接着剤を選んで剥落止めの処置を行います。
- しわ
- しわが発生した作品は、そのまま放置しておくと部分的な焼けなどを起こす危険があります。湿気を与えた後、プレスやサクションテーブルにより、しわを除去して平らにします。
- 破れ・穴
- 破れや穴は、放置すると広がる可能性があるので、裏面から和紙を用いて補強するなどの処置を行って直します。
- 額装材料
- 酸性の額装材料が用いられている場合は、無酸のものと取り替えます。
※サクションテーブル
テーブル上の網を通して真空ポンプで空気を下に引くことによって、紙の作品の汚れを吸い取り紙に吸い取って除去したり、しわを直したりすることができる機器。パステル画や水彩画など、水浸できない作品の修復に適する。