SEASON2 第十九回目
絵画に発生する結晶
絵画に発生する結晶は、カビと混同されたり、絵具層の曇りに見えたりし、結晶であると気づかないことが多い症状です。しかし、結晶は、進行すると取り返しのつかないことになります。日本の油彩画によく見られるにもかかわらず、亀裂や剥落などの症状に比べて知られていません。紙の作品に発生することもあります。そのため、今回は、絵画に発生する様々な症状のうち、結晶について詳しく取り上げます。
カビと混同しやすい結晶、顕微鏡写真(クリックで拡大)
結晶には、ニスやサイズが大気汚染物質と反応して発生する種類のものと、絵具自体が大気汚染物質と反応して分解されて発生する種類のものがあります。紙の繊維内に砂糖のように見える結晶は前者です。油彩画には、前者と後者の両方の場合が知られています。
結晶(ザラメ状)、顕微鏡写真(クリックで拡大)
前者の結晶は白い粉状に見えますが、後者の結晶は、粉状、針状、角状、板状など、様々な形態をしています。前者は硫酸アンモニウムで、後者の殆どは硫酸亜鉛の水和物です。後者の発生部位は、画面全体にわたることも特定の絵具層のみのこともあります。また、絵具層表面にとどまっている場合も絵具層内部にまで広がっている場合もあります。症状が進むと、絵具層を破壊して無数の亀裂を生じさせ、内部から突き上げるように発生が進行します。
結晶(針状)、顕微鏡写真(クリックで拡大)
硫酸亜鉛の結晶の場合、ジンクホワイト(亜鉛華)などの亜鉛を含む絵具が絵具層又はグランド層に用いられている絵画に発生します。発生のメカニズムとしては、湿度の高い環境に置かれた絵画の表面に、大気汚染物質(二酸化硫黄)を吸収した水が凝縮し、その水が絵具層の中に入り込んで絵具中の亜鉛化合物を溶解した後に水分が蒸発して発生すると考えられます。このとき、結晶を溶解した水が表面に移動するため、結晶の成長につれて画面の破壊が起こります。
絵具層の下で進行し絵具層を破壊する結晶、顕微鏡写真(クリックで拡大)
結晶の発生が認められた場合は、すぐに専門家による処置を行い、また、作品の周辺の湿度を管理して発生を予防することが大切です。